SF映画×キアヌ・リーブスといえば、「マトリックス」ですが、もう古いのかな…。今回の作品も、人間の倫理観に深く切り込む、なかなか見応えのある一本でした。
レプリカズ:映画紹介
『レプリカズ』は、神経科学者ウィリアム・フォスターが、人間の意識をコンピューターに移す実験に挑むSFスリラーです。しかし、突然の交通事故で愛する家族4人を失ってしまった彼は、その悲しみから禁断のタブーを犯すことを決意します。家族の肉体をクローン化し、さらに意識を移し替えることで、完璧なレプリカとして彼らを甦らせることに成功。
ただし、その記憶にはわずかな改ざんが加えられていました。家族と幸せな日々を送ろうとするウィリアムですが、彼の研究を狙う政府組織が動き出し、愛する家族を守るため、暴走した科学者の孤独な戦いが始まります。
命の倫理とクローン技術の可能性
この映画のテーマは、まさにクローン技術と人間の倫理です。交通事故で大切な人を失う悲しみは痛いほど分かりますが、だからといって肉体をDNAから復元させるという行為が、果たして正しいことなのか。これは映画だからこそ、一旦その問いは置いておいて、物語の進行に身を委ねてみましょう。
肉体という「入れ物」はクローンでできたとして、次に問題になるのが「記憶」です。こればかりはさすがに無理だろうと思っていたんですが、この映画では、へんてこな液体のような記憶装置に、脳みその中身をすべてコピーできるという、なんともSFチックな設定が盛り込まれています。
このコピーを再び人体に戻した時、まるで臓器移植の拒絶反応のように、奇妙な現象が起こるんです。自分が死んだと認識した人間が再び目覚める。一瞬何が起こったか分からないような戸惑いと混乱が、スクリーンから伝わってきます。さらに実験では、鋼鉄のボディに記憶を戻すという、これまたぶっ飛んだ展開に。順応できればほぼ無限の寿命を手に入れることができるのですが…。
科学者の「非情な選択」
そして、この映画には、観ていて思わず声を上げてしまうような「ひどい設定」が仕込まれています。それが、クローンを作るための「実験槽が一つ足りない」というもの。子供なんだから、一つの実験槽を半分に割って何とかするとか、そういう発想はなかったのかと。原作者の頭の中を疑いたくなるような、まさに“鬼畜”な設定に、私は呆れてしまいましたよ。
結局、主人公のキアヌは、相方に「誰か一人を選べ」という非人道的な選択を迫られ、悩んだ末に末っ子の女の子が除外されてしまいます。生き返らせた家族から、末っ子の女の子の記憶だけを消去するという、ありえないことを何とか成功させ、一旦は丸く収まったかに見えました。
科学者の葛藤と裏に潜む陰謀
しかし、物語はそんな単純には終わりません。キアヌが、実は研究の背後にいる謎の「おじちゃん」の手のひらの上で踊らされていただけ、という事実が次第に明らかになっていきます。この辺りのサスペンス要素も、デヴィッド・フィンチャー監督作品に通じるものがあるかもしれません。
主演のキアヌ・リーブスは、愛する家族を失った悲しみと、禁断の科学に手を染めてしまった苦悩を、その表情と演技で見事に表現しています。彼のシリアスな演技が、この映画に説得力を持たせているのは間違いないでしょう。また、共演のアリス・イヴが演じる妻のモナは、単なる被害者ではない、複雑なキャラクターを見事に演じきっています。
衝撃の結末とハッピーエンド?
ラストは少しひねられていましたが、最終的にはみんながハッピーになったような、一見すると綺麗な終わり方です。しかし、その過程にあった「鬼畜設定」の数々を考えると、果たして本当に「ハッピー」と言えるのか、観終わった後には色々な感情が渦巻きます。
クローン技術や意識の転送といった最先端の科学が、人間の倫理観とどう向き合うべきなのか。ハラハラドキドキのスリラー要素もありつつ、家族愛や人間の選択といった普遍的なテーマも描かれています。SF好きはもちろんのこと、生命倫理について考えさせられた1本でした。