仕事、子育て、家族のこと…日々に追われていると、「幸せって何だっけ?」なんて、ふと立ち止まって考えてしまうことがあります。そんな時に、大きな感動と、忘れかけていた大切なものを思い出させてくれました。お金や物がなくても、人はこんなにも豊かに、そして幸せに生きられるんだと教えてくれる、心温まる夫婦の物語です。
カナダの伝説的画家の壮絶な人生
この映画は、カナダで最も愛された素朴派画家、モード・ルイスの真実の物語を描いています。彼女の人生は、若い頃から壮絶なものでした。
若年性リウマチにより幼い頃から体に不自由を抱え、学校では「邪魔者」扱い。両親を早くに亡くすと、性悪な兄に家を売られ、叔母の家に身を寄せます。しかし、そこでの扱いは決して良いものではなく、唯一のよりどころは絵を描くことでした。
さらに、彼女が妊娠して生んだ子どもは「死んだ」と告げられるという、あまりにも悲しい出来事も経験します。後になって、その子が本当は生きていたことを叔母から聞かされたモードの心中は、いかばかりだったでしょう。
贖罪のつもりだったのかもしれませんが、モードにとってはあまりにもひどい仕打ちです。私のような部外者が言うのはおこがましいですが、あの状況でよく平静を保っていられたと、本当に感嘆します。
無骨な男と小さな家
そんな悲惨な境遇にありながら、モードは狂うことなく、むしろ温かみのある絵を描き続けます。そして、ひょんなことから出会ったのが、愛想がなく無骨な男性、エベレット・ルイスでした。彼は世間からは評判の悪い男でしたが、モードは彼と結婚し、彼が所有する小さな小さな家で生活を始めます。
映画の中では、モードがどんな小さなことにも喜びを見つけ、自分にできることを精一杯こなす姿が描かれます。エベレットは口数も少なく、一見するとモードを支えているようには見えません。しかし、映画を観ていると、少しずつ彼の心がほぐれていく様子が丁寧に描かれており、不器用ながらもモードを深く愛し、彼女が自由に、ストレスなく絵を描ける環境を整えていたことが分かります。
あの小さな、絵のように可愛らしい家で、二人はどんな会話を交わし、どんな日々を過ごしたのだろうと想像すると、胸が温かくなります。部屋中に飾られたモードの絵が、二人の愛の証のように輝いていました。
永遠に色褪せない愛:モードが残した心の風景
モード・ルイスの絵が美術的にどう評価されるのか、正直なところ私には分かりません。でも、「子どものような」という表現は適切ではないかもしれませんが、純粋に、ただ感じたものをそのまま絵にしているような、素朴で温かい印象を受けました。あの悲惨な境遇で、どうしてあんなにも美しく、そして温かい絵が描けるのか、ただただ驚くばかりです。
映画のラスト、モードが亡くなった後のシーンも非常に印象的でした。エベレットは悲しむそぶりを見せません。その理由の一つは、彼女の描いた絵が部屋中に溢れていたから。小さなモードがいなくなっても、彼にとっては、絵を通して常にモードがそばにいるように感じられたのではないかと思います。
エンドロールでモード・ルイス本人の写真が映し出された時、この物語が実話だったことに心底驚きました。彼女のことも、彼女の絵のことも全く知りませんでしたが、こんなにも深い感動を与えてくれる映画に出会えたことに感謝しています。主演のサリー・ホーキンスは、モード・ルイスの繊細さと強さを完璧に演じきっていて、彼女なしではこの作品は成り立たなかったでしょう。
まとめとして
お金やモノが豊富にあるからといって、必ずしも幸せとは限らない。そして、世間の評価や常識に縛られることなく、自分たちのペースで、自分たちらしい生き方を貫くことの尊さ。
「自分が本当にやりたかったことって何だろう?」「自分の気持ちに正直に生きられているだろうか?」と、自分の人生を見つめ直す良いきっかけになりました。