ホラー映画はあまり手に取らないのですが、今回観た『アス』という作品は、たった2文字のタイトルがやたら怖いですよね。
アカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督の作品だけあって、単なるホラーじゃなかった。とんでもない設定と、背筋が凍るような演出の連続に、最後まで息をのんでしまいましたね。特に、あの「もう一人の自分」との出会いなんて、想像しただけで肝が冷えますよ、本当に。
映画『アス』とは?
2019年に公開された『アス』は、『ゲット・アウト』で世界を驚かせたジョーダン・ピールが再び監督・脚本・製作を手がけた社会派ホラー映画です。主演にアカデミー賞女優のルピタ・ニョンゴを迎え、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカーといった実力派キャストが脇を固めます。北カリフォルニア沿岸部を舞台に、夏休みを過ごす一家が、自分たちそっくりな**「ドッペルゲンガー」**に遭遇し、悪夢のような恐怖に巻き込まれていくストーリー。単なる恐怖だけでなく、社会への鋭い風刺も込められた作品です。
見どころ:遊園地での出会いと、もう一人の自分
物語の始まりは数十年前、アメリカの遊園地での出来事です。ごく普通の家族が遊園地を訪れる中、ほんの少し目を離した隙に、幼いアデレード(のちの母親)がはぐれてしまいます。彼女が迷い込んだのは、まるでお化け屋敷かミステリーハウスのような鏡張りの部屋。何か起こるに違いない、という不穏な予感が観客の背筋を這い上がります。そして予想通り、そこでアデレードはあるものに出会ってしまうのです。その後の大きな叫び声は、この映画の始まりにふさわしい不気味さでした。
再び家族が登場しますが、今度は活発な奥様(ルピタ・ニョンゴ)、陽気だけど少しズレている父親(ウィンストン・デューク)。やっぱりどこの国でもお父さんってこんな感じなのでしょうか。なんというかちょっと悲しい気分になりますね。そして、生意気な娘と、さらに生意気な弟。観客は、この奥様があの遊園地ではぐれた少女だろうとすぐに予想できます。
赤いつなぎとハサミ、そして「陰」の家族
ここから、奇妙で恐ろしい出来事が次々と起こります。深夜、突然現れる「赤いつなぎ」を着た人々。彼らが手にする「ハサミ」、そして不気味に手をつなぐ姿……。まさに怖いというより、不気味という表現がぴったりの作品です。
特に、ルピタ・ニョンゴさんが一人二役で演じた「陽」の奥様と、「陰」の奥様の演技は圧巻でした。「陰」の奥様の初めての発言は、もう「ぞっとする」なんて生易しいもんじゃなく、まさに「肝が冷える」ような声。あんなのに捕まったら、もう死を覚悟するしかないですよね。最後のネタバレを含めて、この二人の演技は本当に素晴らしかった。
結局のところ、物語冒頭のあの瞬間から「陽」と「陰」は入れ替わっていたんですよね。ありきたりな展開といえばそれまでですが、私はなぜか最後まで気づきませんでした。このあたりの構成は、監督の巧みさが光っていたのでしょう。
恐怖を煽る演出と、残された者たち
「陽」側のパパは、かなりやられましたが、最後までよく頑張りました。汚名返上って気分です。娘も奮闘しましたが、「陰」側の娘は、あれは怖かった。夜中にあんなのに出会ったら、いいおっさんである私でも変な声が出ると思いますよ。
対して、息子ですが、「陰」の息子はあまり怖くなかったですね。それよりも、「陽」の息子役がつけていたマスクが、ものすごく気持ち悪かった!マスクをしても、頭の上にかぶっていても、顔よりもマスクに目がいってしまうんです。マスクをつけるというアイデア、そしてあの大き目のマスクを選択した監督や演出家はすごいですね。もしかしたら、演技を隠すためだったのかもしれませんが、「陰」の息子なんか比べ物にならないくらい怖かったです。
「陰」の人々はなんだかぼんやりとしていて、ピンチになっても回避できる場面がいくつかあったのですが、結局のところ、地上の人々はほとんどやられてしまいます。そして、映画の最後のシーンから想像するに、世界は赤いつなぎの人々、つまりクローンに占領された、ということですよね。もしかして、オリジナルの人間で生き残ったのは、パパと息子と娘だけなのでしょうか?生き残った彼らがどうなるのか……。やだ、なんかそれも怖い。
まとめ:社会に潜むもう一人の自分に問いかける
『アス』は、単なるドッペルゲンガーのホラー映画ではありません。社会の分断や、見過ごされがちな存在、そして我々自身の「もう一人の自分」に問いかける、深いメッセージが込められています。恐怖と不気味さの中に、考えさせられるテーマが詰まった一本です。ホラーが苦手な方も、ぜひこの「アス」に挑戦してみてはいかがでしょうか。きっと、新たな発見があるはずです。
ジョーダン・ピールが監督・脚本・製作を行ったゲットアウトも超絶面白かったのでこの映画が好きだったら見てみてください!