アマプラビデ王の日々

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それでも夜は明ける~自由を奪われた男の12年間が語りかけるもの

 

1841年、ニューヨーク。家族と幸せな日々を送っていたバイオリン奏者ソロモンは、ある日突然誘拐され、奴隷にされる。彼を待ち受けていたのは、狂信的な選民思想を持つエップスら白人による目を疑うような差別、虐待そして”人間の尊厳”を失った奴隷たちだった。妻や子供たちと再び会うために彼が生き抜いた11年8カ月と26日間とは。(C)2013 Bass Films, LLC and Monarchy Enterprises S.a.r.l. in the rest of the World. All Rights Reserved.

 

『それでも夜は明ける』(原題:12 Years a Slave、2013年)は、自由黒人だったソロモン・ノーサップが誘拐され、奴隷として12年間を過ごすという実話を描いた歴史ドラマです。アカデミー賞では作品賞を含む3部門を受賞。人種差別、非人道的な労働、そして“人間性”そのものに鋭く迫る、静かで力強い衝撃作です。

 

これは「過去の話」ではなく、「今の話」かもしれない

「This is based on a true story.(この話は実話に基づいている)」

冒頭にこの一文が映し出された瞬間、身構えました。
こういった作品で最初に「実話」と告げられると、心のどこかにスイッチが入りますよね。「ただの映画」として観てはいけないな、と。

そして原題『12 Years a Slave』の意味を知ったとき、日本語タイトル『それでも夜は明ける』がじわじわと胸に沁みてきました。素晴らしい翻訳でその裏にある“地獄のような現実”が、じわじわと明かされていくのです。

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見どころ①:ムチ打ちの痛みが、画面から滲み出す

映画のなかで幾度となく描かれるのが、ムチ打ちや暴力のシーン。
単なる“虐待の描写”ではなく、「人間を所有物として扱う」ことの異常性を、強烈に突きつけてきます。

背中を裂くムチ。飛び散る肉片。音すら耳に残るようなリアルさ。
いわゆる“ミミズ腫れ”などという表現では収まりきらない。まさに、人間がモノとして扱われる音と痛みです。

 

見どころ②:「所有物」――この一言の恐ろしさ

劇中で奴隷所有者が放った言葉、「They are my property(こいつらは私の所有物だ)」。
このセリフが何度も脳内にリフレインしました。

英語の「property」は、土地や建物にも使われます。つまり、人ではなく**“物”とまったく同じ扱い**です。
ああ、この時代、この社会において、黒人は“感情”も“人格”も“尊厳”も剥ぎ取られていたのだと、背筋が凍りました。

 

見どころ③:女性たちがさらされる“もう一つの地獄”

この映画では、女性奴隷たちが受ける性的搾取や暴力もリアルに描かれます。
慰み者として使われ、さらにそのことで女主人から妬まれ、殴られ、引っかかれ、蔑まれる。

瓶を頭にぶつけられる少女や、「殺してくれ」と懇願する女性。
どれも現実にあったこと──そう思うと、言葉を失います。

ある女性がソロモンの手を取り、自らの胸に触れさせるシーンも印象的でした。
あれはきっと、自分が“人間”であることを、せめて他人のぬくもりで確かめたかったのではないか。
「私は物じゃない」と、誰かに伝えたかったのではないか。

 

見どころ④:希望を描かずに、「それでも夜は明ける」

映画の原題は『12 Years a Slave』ですが、日本語タイトルは『それでも夜は明ける』。
一見、希望を感じさせる表現。でもこれは単なる希望の光ではなく、“容赦なく続く現実”でもあると感じました。

夜が明ければ、また奴隷として働く一日が始まる。
どれだけ疲れても、誰が死んでも、朝は来る。
変わらない絶望の連続に、どこかで“救い”があるのかと期待して観てしまう。でも現実はそんなに甘くない。

そして、ようやく訪れた救出と帰還。
家族との再会シーンは涙が出るほど感動的でしたが、完全なハッピーエンドとは言い切れません。

なぜなら、彼が戻れた12年の間に、戻れなかった何万人もの人がいたからです。

 

歴史の事実としての重み:誘拐・売買・奴隷制度

この映画のモデルとなった**ソロモン・ノーサップ(1808–1863頃)**は、実在の人物です。ニューヨーク州で生まれ育った自由黒人だった彼は、1841年に誘拐され、ルイジアナ州で奴隷として売られ、12年後に奇跡的に救出されました。

アメリカでは奴隷制度が1865年まで合法でした。つまり、ソロモンと同じ境遇の人間が何十万人といたのです。
この映画は、過去の出来事ではなく、“人間性の試練”そのものを描いていると感じました。

 

出演俳優にも注目:演技の迫力に圧倒される

主演のソロモンを演じたのはキウェテル・イジョフォー。静かで深い演技が胸に刺さります。
彼の「叫ばない演技」が、逆に言葉以上のものを観客に伝えてくれました。

また、支配的な農場主を演じたマイケル・ファスベンダー。彼の異常性と複雑さを巧みに演じていて、ある意味で“恐怖の象徴”とも言える存在です。

 

まとめ:観るのが辛い。でも、観るべき映画

『それでも夜は明ける』は、楽しい映画ではありません。
ただ、観なければならない映画です。

人間の尊厳が踏みにじられるとはどういうことか。
制度が“当たり前”になったとき、どんな狂気が起こりうるのか。
現代に生きる私たちも、決して無関係ではいられないと感じさせてくれます。

静かに、重く、しかし確かに、あなたの心に残る一本です。