アマプラビデ王の日々

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月~突きつけられる現実、見つめ続けることの重み

月



映画『月』について

2023年10月13日に公開された映画『月』は、辺見庸の同名小説を原作に、『舟を編む』の石井裕也監督が宮沢りえを主演に迎えて製作したヒューマンドラマです。重度障害者施設で働き始めた元・作家の堂島洋子が、職員による入所者への心ない扱いや暴力を目にしながらも、それを訴えても聞き入れてもらえない状況を描いています。

 

この映画は、2016年7月26日に神奈川県立の知的障害者福祉施設津久井やまゆり園」で起きた大量殺傷事件をモチーフにした問題作でもあります。この事件では、元職員の植松聖が入所者19人を殺害、26人に重軽傷を負わせました。植松は「意思疎通のとれない障害者は安楽死させるべきだ」「重度・重複障害者を養うには莫大なお金と時間が奪われる」などの自説を展開し、世間に衝撃を与えました。

 

朝から見るべきではなかった暗すぎる現実

暗い、暗すぎる。朝から見てしまったので、気持ちを取り戻すのに少し時間がかかってしまいました。

ただひたすらに描かれる不穏な感じ、嫌な感じ、不快感。映画を見ながらこの不快感というのはどこからやってくるのかを考えました。

この映画のテーマにもなっているように、自分自身が見たくないもの、考えたくないものを事実として並べられる、それがこの不快感につながっているのではないかと考えました。

 

対岸の火事」として見ている自分への問いかけ

結局のところ巷にあふれているほとんどの問題は、自分に関係ない。自分のことになってから初めて真面目に考えるようになるんでしょうね。対岸の火事として。

登場人物はみんな狂っているし、悲観的すぎる。他人の問題すべてを自分の課題として考えることはできないのだから、少し肩の力を抜けばと言いたくなります。

 

タイトルに込められた深い意味

タイトルの「月」もかなり考えられたものだと思います。昼間は明るい太陽がありほとんど目立たないが、夜になるとその存在感をはっきりと示す。

自分自身は光を持たないが、太陽の光を反射して輝く。全く光がない新月の夜もあれば、昼間にように明るい満月の夜ある。

決してフォーカスを与えられない問題だが、確実に目の前にある。そういったものを象徴するものとして、映画の中でも月は何度も登場します。

 

やまゆり園事件への言及

途中から狂い始めた男の言動からある事件が思い出されます。やまゆり園事件の話。確かに植松の思想や行動はむちゃくちゃだった。だけども彼なりのポリシーがあり、もし私が事前に彼の話を聞いていたとしても、彼を説得することはできなかったと思う。

植松本人に焦点を当てるのではなく、夫婦を通したフィルターでこの事件を描くというのも、「どうせあなたもこの事件は他人事として見ているのでしょう?」と言われているようです。

 

自分自身への問いかけ

彼らの存在意義をまじめに考え始めると、やはり私も植松側なのだと思ってしまった。

この映画は、私たちが日常の中で見て見ぬふりをしている現実を、容赦なく突きつけてきます。障害者の存在意義、社会における役割、そして私たち自身の心の奥底にある偏見や差別意識。これらすべてを正面から受け止めることの重さを、改めて感じさせられました。

 

最後に

あまり気楽な気持ちで見ないほうがいいです。

この映画は娯楽として消費されるべき作品ではありません。見終わった後、しばらく立ち直れないほどの重さを感じるでしょう。しかし、それこそがこの映画の価値であり、私たちが向き合わなければならない現実なのかもしれません。


※この記事は、やまゆり園事件という実際に起きた痛ましい事件を題材にした映画について書いています。被害者の方々とそのご家族に対し、深くお悔やみとお見舞いを申し上げます。