舞台は1987年ハーレム。クレアリース“プレシャス”ジョーンズは、16歳にして父親の子供を身ごもり、母親にこき使われ、文字の読み書きもできない。「プレシャス=貴い」という名前とはかけはなれた毎日。そんな中、学校を退学させられたプレシャスは、フリースクールに通い始める。そこである教師と出会い、人生に目覚め、「学ぶ喜び」、「人を愛し、愛される喜び」を知る。それは、今までに考えたこともないことだった。果たして彼女が選んだ道とは・・・?(C) 2009 PUSH PICTURES, LLC
貴重な」という名前の残酷な皮肉
「プレシャス(Precious)」- 貴重なとか大切なという意味のタイトルですが、この映画の内容はなかなかにきつい現実を突きつけてきます。我々が「少女」という言葉からイメージするものとは、まったくかけ離れた世界がそこにはありました。
作品紹介
「プレシャス」は2009年に製作されたアメリカの社会派ヒューマンドラマです。1987年のニューヨーク・ハーレムを舞台に、過酷な家庭環境で育った16歳のアフリカ系アメリカ人少女の人生を描いた作品。サファイアの小説「プッシュ」を原作とし、サンダンス映画祭でグランプリを受賞、第82回アカデミー賞では助演女優賞と脚色賞を受賞した話題作です。製作費1000万ドルに対し、全世界で6350万ドルの興行収入を記録しました。
あらすじ - 底辺からの這い上がり
1987年のハーレム。クレアリース"プレシャス"ジョーンズは16歳にして父親の子供を2度身ごもり、母親にこき使われ、文字の読み書きもできない状況にあります。1人目の子供はダウン症で、彼女自身も肥満に苦しんでいました。
学校を退学させられたプレシャスは、フリースクールに通い始めます。そこでレイン先生という教師と出会い、初めて「学ぶ喜び」「人を愛し、愛される喜び」を知ることになります。それは今までに考えたこともないことでした。
しかし、母親は徹底的にプレシャスの成長を邪魔し、父親との行為がフラッシュバックして意識が遠のいてしまうこともあります。さらにHIVの感染も発覚し、なぜ彼女はここまで苦しまないといけないのかと疑問に思えるほどの試練が続きます。
見どころ1 - 主演ガボレイ・シディベの圧倒的な存在感
主人公のプレシャス役はオーディションで選ばれたガボレイ・シディベ。この作品が実質のデビュー作となる。彼女もプレシャスと同じハーレムの出身で低所得の家庭に生まれ育った。
主人公の女性は決してかわいくはないです。母親からの過食という虐待もあってか、ひどく太っているのですが、それがかえってハーレムの現実を反映しているようでリアリティがありました。演技経験ゼロの新人でありながら、その圧倒的な存在感は忘れられません。
見どころ2 - 豪華キャストの助演陣
マライア・キャリーが演じたソーシャルワーカーのワイス夫人役は、当初イギリスの女優ヘレン・ミレンが演じる予定であった。また、キャリーは普段の歌手としての姿とは別人のようなノーメイクと地味な服装で役に挑んでいる。マライア・キャリー、レニー・クラヴィッツといった有名スターが脇を固めており、特にマライア・キャリーの変貌ぶりには驚かされます。アカデミー助演女優賞を受賞したモニークの毒母親役も強烈な印象を残します。
見どころ3 - 現実とのギャップを表現する妄想シーン
映画ではところどころで彼女の妄想が物語のように展開されます。自分の大好きな人との生活、芸能人になってみんなからちやほやされる生活。それらの妄想がチープでまた悲しい。この演出が、彼女の置かれた過酷な現実とのギャップを際立たせています。
1987年ハーレムという時代背景
1980年代後半のハーレムは、貧困と犯罪が蔓延し、アフリカ系アメリカ人コミュニティが深刻な社会問題に直面していた時代です。レーガン政権下での社会保障削減や、クラック・コカインの蔓延などが、プレシャスのような家庭をより一層困窮させていた背景があります。
重すぎる現実への問いかけ
あの状態で私は彼女のように強い意志で生きていけるとは思えないですね。これが現実に起きている場所があると思うと、本当にやるせない気持ちになります。こんなことが本当にあっていいのかと思えるレベルのお話です。
皆さんにも問いかけたいのですが、もしあなたがプレシャスの立場だったら、希望を見出すことができるでしょうか?2児の母として、HIVという病気を抱えながら、それでも前向きに生きていけるでしょうか?
まとめ - 救いのない現実と希望の光
最後まで救いもなく、エンディングを迎えてしまいました。大逆転できるのは本の一握り、これが現実なんでしょうね。泣いたり笑ったりしながら過ごす彼女の2年間ほどが映画になっているのですが、観る者の心を重くする一方で、人間の強さについても考えさせられます。
この映画は決して娯楽作品ではありません。しかし、社会の底辺で生きる人々の現実を知り、教育の力や人間関係の大切さを再認識させてくれる貴重な作品です。観るのに勇気が必要な重いテーマですが、現代社会を生きる我々にとって、目を逸らしてはいけない現実がここにはあります。