私は映画の登場人物のようにイケメンでもなければ、プロ級のテニスプレイヤーでもありません。オペラやクラシックにもさっぱり疎いです。しかし、この映画だけは、登場するクロエとノラのどちらを選ぶか悩ませてほしい。
テニスボールがネットに当たってどちらに落ちるかで、勝敗が決まるように、人生の選択もまた運によって決まる、そんなことを考えさせられる恋愛サスペンスです。
映画『マッチポイント』とは?
2005年に公開された『マッチポイント』(原題:Match Point)は、ウディ・アレンが監督・脚本を手がけたサスペンス映画です。プロテニス選手を引退したクリス(ジョナサン・リス=マイヤーズ)は、上流階級への野心を抱き、富豪の娘クロエ(エミリー・モーティマー)と結婚します。しかし、義兄の婚約者であるノラ(スカーレット・ヨハンソン)と出会い、禁断の関係に陥ります。欲望と野望の狭間で揺れ動くクリスの運命と、その選択が招く悲劇を描いた、人間の本質に迫る傑作です。
対照的な二人の女性と、男の野心
クロエは、お上品でかわいく、従順でお金持ち。そして、一生懸命クリスを愛してくれる。今どきこんな良い子いませんよ。彼女のちょっと困ったような笑顔もかわいらしく、お金持ちであることを鼻にかけることもない。クリスが結婚相手にクロエを選んでしまうのは、必然だったと思います。
そんな中、現れたのがノラを演じるスカーレット・ヨハンソン。なんだこの美人は。クロエとは全く正反対ですが、どんなに抗っても引き寄せられてしまう危険な魅力。クリスが夢中になるのも仕方がありません。ノラが自分の夢のために頑張っている姿も、少し前までクリス自身がそうだったからこそ、惹かれるものがあったのでしょう。
クリスはクロエとのセレブ生活と、ノラとのスリルに満ちた関係の間で揺れ動きます。ノラとの浮気の背景には、上流階級への嫉妬もあったと思います。自分の力ではどうしようもなかったものが、苦労せずとも手に入る。この不公平感が、彼の心を蝕んでいったのかもしれません。
テニスボールが示す、運命の結末
クリスはノラと浮気を続けますが、やがてにっちもさっちもいかなくなり、ある行動に出ます。
冒頭に登場するテニスボール。ネットに当たって向こう側に落ちれば自分は勝つ。一方、手前に落ちれば負けてしまう。この伏線が、物語の後半で回収されます。
おばあちゃんから奪った指輪をクリスが投げ捨てたとき、どちらに落ちましたか?そう、手前側に落ちたのです。この瞬間、クリスは破滅に向かうのだと確信しました。しかし、なんと、この手前に落ちた指輪が、最終的な決め手となってクリスの罪は問われないことになってしまうんです。
いや、そう考えてはいけなかったのかもしれません。クリスは一生罪を背負って生きる。そちらのほうが、いっそのことすべてをぶちまけて罪を償うよりも、つらいのかもしれませんね。
確かにクリスは自分勝手すぎました。でも、あんな魅力的な女性2人が現れたら、まともな精神を保てるとは思いません。ああ、私も一度でいいから、こんな贅沢な悩みを経験してみたい。悩むけど、やっぱりクロエを選ぶだろうなぁ。
恋愛ものが苦手な私ですが、この映画は面白かった。特に、ノラを演じるスカーレット・ヨハンソンが本当に魅力的な一本でした。