アノニマス(Anonymous:匿名)の言葉をもじったタイトルかな?と思い、少しアンダーグラウンドな映画と思ってみはじめたのですが、なんだこの映画は。。。
でも、その「違和感」が妙に残った作品でした。
映画をざっくり紹介
『アノマリサ』(2015年公開)は、『マルコヴィッチの穴』や『エターナル・サンシャイン』で知られる脚本家チャーリー・カウフマンが監督したストップモーション・アニメ映画です。人形劇のような独特の質感で描かれる本作は、シンシナティへの出張旅行に出かけた主人公マイケルが、自分に欠けていた「何か」に直面する物語。愛と笑い、そして孤独が不思議に絡み合った90分です。
声がすべて同じという違和感
最初に驚かされるのは「登場人物の声がすべて同じ」という仕掛け。主人公と、彼の妻、同僚、通りすがりの人までも同じ男性の声で話します。声優はわずか2人しかおらず、演じ分けは一切なし。この不気味な統一感が、マイケルの孤独と閉塞感を強烈に表現しているのです。
孤独な中年男性の心理描写
映画を観ていると、まるでマイケルの頭の中を覗いているような感覚になります。
・仕事へのプレッシャー――大した人間でもないのに講演で立派なことを言わなければならない。
・過去の恋人への未練――あの時、別れなければどうなっていただろう。
・不特定多数からモテたい願望――でも美人は劣等感を刺激するから、そうでない相手を選んでしまう。
人には言えない、心の奥底に潜む欲望や劣等感があからさまに描かれ、思わず「自分もそうかもしれない」とドキリとします。
意味深な小道具たち
本作には解釈を迷わせるシーンがいくつも登場します。アダルトショップでの一幕、謎めいた日本のからくり人形…。どれも明確な答えは示されませんが、男性としてのコンプレックスや、二次元的な愛への憧れを暗示しているようにも見えます。解釈は観る人に委ねられているのです。
すべての人が「同じ」に見える虚しさ
ラスト近くでマイケルが「お前らは誰なんだ」と叫ぶ場面は象徴的でした。周りの人々は親しげに接してくれるが、結局は誰とも分かり合えない。そのむなしさと孤独感が、年齢を重ねるにつれて深まっていく。観終えたあと、自分自身の人生に重ねて考えてしまいました。
独特な映画体験をしたい人へ
『アノマリサ』は、万人受けする娯楽作ではありません。ですが「孤独とは何か」を真正面から突きつけてくる稀有な映画です。人形劇的な質感とチャーリー・カウフマンらしい不条理さが組み合わさった独特の体験。普通の映画に飽きた方には強くおすすめします。
ちなみに、人形劇アニメが好きな方には日本のストップモーション映画『JUNK HEAD』も必見。こちらも異形の世界を舞台にした独特の映像体験ができます。