ペインレス~痛身を感じない男が愛したものは
内戦時代のスペイン。痛覚を持たない子供たちが次々と生まれた。彼らの存在を危険だと判断した政府は子供たちをフランスとの国境近くの施設に隔離した。
今回の映画の主役となるベルカノ。
小さいころから他の同級生と比較しても飛びぬけて異質なものとして描かれます。
彼はタイトルどおり痛みを感じない人間なのですが、痛みとは、肉体的なものだけなのかそれとも精神的なものも含めるのか。
これを考えるとき、冒頭で事故にあい癌が見つかるダビットの育ての親について知っておく必要があります。
ドナーの依頼を断った父親から、自分の親は別にいると聞かされます。
育ての親から「過去は調べるな。」といわれるのですが、ドナーがいなければ自分は死んでしまいます。
自分の過去を求めるため必死に情報を集めますが、そこには映画のセリフどおり「狂気と死」しかありませんでした。
ベルカノとダビットの関係は最後まで明かされず、いったいどんな展開になるのか楽しみだったのですが、それを予想しようと思ったときに、ちょくちょく現れるベルカノの狂気やナチスの非人道的な行為。
これがなかなか怖いし痛いし、グロテスク。大きな声を出して叫ぶ怖さというよりかは、後ろからヒタヒタと見えないものが近づいてくるようなそんな静かな怖さですね。
痛みを感じないベルカノは、あの狭い牢屋のなかでただ一人静かに暮らしていましたが、ダビットの父親に見つけ出されます。
残虐な拷問官になったベルカノ。そんな彼の元に連行された一人の女性。
彼は彼女に何を見たのか。
あの歌声なのでしょうか、それとも涙なのでしょうか。これってとっても大切なことだと思ったのですが、どっちも判断がつかないのです。マジで最初から見直そうかと思いましたよ。
涙を拭いていたのは覚えていたのですが、あの歌、看護師さんが口ずさんでいましたっけ?そしてもう一つ、ベルカノと彼女との間に子供ができるのですが、子供が生まれたとき彼女は息絶えていたような気がしませんか。
だってピクリとも動かなかったでしょ。
なんとなく、ベルカノが摘出したんじゃないかと思ってしまって。
思わず停止ボタンを押そうかと思ったのですが、続きが気になって仕方なく先に進めてしまいました。痛みを感じないベルカノは確かに少しおかしいところはあった。
だけども本当におかしいのは彼だけなのか?
子供たちを非人道的に牢屋に閉じ込めるあの医師たちは自分自身の肉体的な痛みは感じることができたのでしょうが、子供たちの痛みは理解できていたのでしょうか。
そして大きなテーマとしてあるユダヤ人迫害。
同じ人間がやったこととは思えない。同じ人間なのに、想像力が足りないのか、環境のせいなのかいとも簡単に人を傷つけます。
で、やっと冒頭に書いたこととつながるのですが、四六時中拷問をした上に、あんな恐ろしいことを提案したダビットの父親こそペインレスじゃないのかと思ってしまいます。
肉体的な痛みはもちろん感じたでしょうが、精神的なほうは?相手の気持ちは?本当に何も感じなかったのですかね?
自分自身の心の痛みに耐え切れず自殺するくらいですから、当時は平気だったけど、あとから考えて恐ろしいことをしたと気づいたのでしょう。
ラストは親子が対面してハッピーエンドか、それともなにも気づかずダビットは殺されてしまうのかと思っていたのですが、火で燃えて全部なくなっちゃうのです。。
これもなかなか潔い終わり方だった。変にお涙頂戴なラストだったらどうしようかと思いました。
サイコパス系の映画はたくさんありますが、視聴後の後味の悪さまで含めてとても面白い1本でした。