この映画を観ようと思ったきっかけは、竹内結子さんが主演だったから。芯が強そうでいて、どこか影を抱えている。その雰囲気を自然にまとえる女優さんでした。
『ストロベリーナイト インビジブルレイン』でも、その印象は変わりません。
強い刑事でありながら、どこか危うく、無理をして立っているように見える姫川玲子。役柄なのか、それとも彼女自身の持っていたものなのか。観ている側としては、その境目がわからなくなる瞬間があります。
そんなことを考えながら観始めたのが、この映画でした。
映画をざっくり紹介
『ストロベリーナイト インビジブルレイン』は、誉田哲也の警察小説を原作としたストロベリーナイトシリーズの映画版です。
2013年公開で、ドラマ版の世界観を引き継ぎつつ、より裏社会寄りの物語が描かれます。姫川玲子を中心に、警察と裏社会が複雑に絡み合い、暴力と感情が静かに降り積もっていくような作品です。
アマゾンプライムでは「ストロベリーナイト」と表示されていますが、「インビジブルレイン」はシリーズの中でも特に重要なエピソード名にあたります。
主要キャストを整理すると、やはりこの布陣は強い
あらためてキャストを整理してみると、この映画がやたらと印象に残る理由がよくわかります。
主人公・姫川玲子を演じるのは竹内結子。
感情を表に出しすぎず、それでいて内側に溜まったものが滲み出る。その危うさを、最後まで崩さずに演じ切っています。強い女性刑事というだけではなく、「無理をして立っている人」に見えるのが、この役の肝だったと思います。
牧田勲役の大沢たかおは、映画版で初登場ながら圧倒的な存在感。
善悪のどちらにも振り切れない立ち位置を、声を荒げることなく表現していて、この物語の湿度を一段引き上げていました。静かな役ほど怖い、というのを久しぶりに実感しました。
姫川の部下・菊田和男を演じるのは西島秀俊。
ドラマ版から続くシリーズの常連で、感情を抑え、現実的な視点を保つ人物です。だからこそ、あのクルマの場面で「外から見ているだけ」という役回りが、ひどく残酷に感じられます。彼がそこにいるだけで、場面の後味が変わる。
この3人を軸に、脇を固める俳優陣も非常に濃い。
今あらためて観ると、「よくこのメンバーを揃えたな」と思わずにはいられません。
なぜ牧田(大沢たかお)は刺されなければならなかったのか
この映画を観て、多くの人が引っかかるのがここだと思います。
正直に言えば、映画の中でこの点は十分に説明されていません。
不要な人間を排除する、という動機は理解できる。けれど、なぜ牧田まで?
組織に思い入れがあるなら、自分自身ですべてを引き受けるという選択もあったのではないか。観ていて、そんな疑問が浮かびます。
ただ、これは論理的な犯罪動機というよりも、裏社会を生きる人間の歪んだ感情の行き着く先として描かれているように思いました。
理屈ではなく、執着と正義感が絡まり合い、引き返せなくなった結果だったのかもしれません。
個人的には、もう少し伏線として心情を匂わせてくれてもよかった。そうすれば、観客の納得感はもう一段深まった気がします。
クルマの中の二人、そして外から見ていた男
印象的だったのが、クルマの中の二人のシーンです。
冷静に考えると、かなり無理のある展開ですし、現実味は薄い。けれど、あの場面は勢いと演技で押し切っています。
感情を抑えきれない姫川と、すべてを受け入れているような牧田。あの密室の空気は、竹内結子と大沢たかおだから成立した場面だと思います。
そして、その様子をクルマの外から見ていたのが西島秀俊演じる菊田。
止めることも、踏み込むこともできず、ただ見ているしかない。その立場が、静かに胸に刺さります。
雨に包まれた裏社会の物語
全体を通して、とにかく雨が印象に残ります。
夜、雨、濡れたスーツ、疲れた表情。演じる側も相当大変だっただろうなと思うほどです。
でも、その雨こそが「インビジブルレイン」というタイトルを体現している。
気づかないうちに心を濡らし、冷やしていくもの。裏社会を描いた作品として、非常に相性のいい演出でした。
パカパカ携帯が映ると、一気に時代を感じる
さいごにいわゆるパカパカ携帯。まだスマートフォンが当たり前になる前の時代ですね。そこだけ切り取ると、さすがに今とは違う。
連絡の取り方や距離感も、どこかゆっくりして見えます。
ただ不思議なことに、それ以外の部分ではあまり古さを感じません。
人間関係の拗れ方や、裏社会の描かれ方、感情のぶつかり合いは、今見ても違和感がない。
だからこそ、パカパカ携帯が映ると逆に「この時代の話なんだな」と、はっきり意識させられるのかもしれません。
原作にも手を伸ばしてみたくなる
この映画を観て、原作小説にも興味が湧きました。
誉田哲也のストロベリーナイトシリーズは、この作品以外にもいくつも続いています。
読後感が決して爽快ではないことは想像できますが、それでも頭に残る物語。
そんな作品が好きな人には、原作もきっと合うと思います。
派手さよりも、じわじわと残る感情。
少し重たいけれど、見応えのある一本でした。
