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タンジェリン|クリスマスイブのLAで感情のまま生きる2人の話

タンジェリン(字幕版)

タンジェリン(字幕版)

  • キタナ・キキ・ロドリゲス
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観ようと思った動機はもはや覚えていないのですが、軽いものでも観るか…という気持ちはあったと思います。こんなの見る予定はなかったのだけどとおもいつつ、最後まで見てしまうというそんな感じの映画でした。

どんな映画?

クリスマスイブのロサンゼルス。刑期を終えて戻ってきたトランスジェンダーの娼婦シン・ディは、彼氏でもある売春あっせん人が浮気していたことを知り、浮気相手を探して街中を走り回ります。親友のアレクサンドラは歌手志望で、その夜のカフェライブに向けて準備中。そこにアルメニア移民のタクシー運転手ラズミックが絡んでくる。監督はショーン・ベイカー、2015年のアメリカ映画で上映時間は88分。コメディドラマという分類ですが、そのカテゴリに素直に収まらないタイプの作品です。


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全編iPhone撮影、ということ

この映画を語るときによく出てくるのが「全編iPhone 5sで撮影」というエピソードです。アナモレンズを装着した3台のiPhoneを使い、低予算インディーズ映画ならではの工夫で作られています。画面は明るく、オレンジがかった色調が印象的で、LAの空気感がそのまま映っているような感覚がありました。2015年のサンダンス映画祭で初披露されてから話題を呼び、ゴッサム・アワードの観客賞・助演女優賞をはじめ国際的な映画賞を多数受賞。日本では2017年1月に公開されています。

主役の2人について

シン・ディを演じるキタナ・キキ・ロドリゲス、アレクサンドラを演じるマイヤ・テイラー、どちらも実際にトランスジェンダーで、撮影当時は演技経験がほとんどなかったそうです。監督のショーン・ベイカーがリサーチ中に出会い、彼女たち自身の経験をもとに脚本が作られました。そういう背景を知ってから改めて観ると、あのパワーが妙に腑に落ちます。感情のままに動き、本能で生きているような迫力は、演技で作り上げたものではないのかもしれません。実生活でも親友同士だったという2人のやりとりには、自然な息遣いがあって、スクリーンから離れにくくなります。

タンジェリンというタイトルについて

タンジェリンとは柑橘類の一種で、赤みがかったオレンジ色を指す色名でもあります。LAの夕暮れ時の街の色がまさにそれで、タイトルはそこから来ているのだと思います。それと、映画の舞台はクリスマスイブなのに登場人物は半袖姿。12月でも15〜20℃あるLAの気候ならではの光景で、これが非日常的な祝祭感と、どこにでもある日常感が同居した独特の空気を作っています。クリスマスなのに浮かれていない。でも別に沈んでもいない。そういうトーンです。

人間の業というか、なんというか

主役の2人を追いながら気になったのは、彼女たちを求める男たちの存在です。ここになんというか「人間の業」みたいなものを感じてしまうのは私だけではないかもしれません。劇的でも特別でもない、クリスマスイブのLAのどこにでもある風景の中に、そういうものがさらっと描かれている。好き勝手に生きて、ふと我に返る瞬間があって、でも翌日からはたぶん何も変わらない——そういう毎日の積み重ねの話でもあります。 ラストのドタバタは正直「なんでやねん」と言いたくなるほどの展開で、そこだけは少しコメディタッチなのかな。

ただ、その後のコインランドリーのシーンはそれまでのわちゃわちゃとは対照的に、じわっときます。派手さはないのに、なぜか目が離せない。そういう映画でした。