監督は映像ディレクター出身の中嶋駿介。主演は劇団「愚者愚者」の藤主税と、『カランコエの花』で注目を集めた有佐。
「SP法」という架空の法律が当たり前に存在する日本。この法律では、男子は初体験の前に「性交人(せいこうにん)」と呼ばれる成人男性と性交を行うことが義務づけられている。そんな世界で、性交人に触れられることを恐れる高校生ユウキが、好きな女の子アヤカと向き合いながら、自分の選択を迫られる。
監督の中学生時代の経験から生み出された作品で、国内外の映画祭で上映されて、性衝動を美しく切り取った描写などが評価される一方、否定的な反応も見られるなど賛否が割れた一作です。
この世界線が現実だったら・・・?
こんな法律がもし存在したら…馬鹿げている、気持ち悪い、冗談だろ……そう思いますよね。確かに設定だけを聞けば笑ってしまうかもしれない。でも、それをバカにせず、「もしあったらどうなるか?」をきちんと考え、まじめに議論をしてもいいかもしれないとさえ思っています。
それに、男性側に痛みを伴う儀式をするケースは人類の歴史をみると決して珍しいことではありません。割礼や通過儀礼という風習が現在でも残っている地域や民族もいます。
トラウマになる人もいるだろうからそのケアや、施術人の確保と教育、そして何らかの事情があって施術を受けられない人に対する偏見をなくしていく必要もあります。
だけども一度受け身になることで、女性に対する思いが変わることは事実だと思います。
これは「変な映画」なのではなく、「変な世界」を本気で描こうとしたのだと思います。
高校生たちの動機がシンプル
高校生が主人公なのもとてもいいと思う。彼らはまだ世間をあまり知らず、驚くほどまっすぐです。
主人公ユウキは、彼女を“奪われたくない”という想いから、SPを受けるかどうか悩み続ける。その感情は、見栄とか自尊心だけでなく、ただただ彼女の隣にいたい、守りたい、(もちろん性欲も…)という、ひどく単純なもの。
彼女・アヤカを演じる有佐の演技もよかったですね。あんな彼女がいたら、SPなんてすぐ受けますよ、私は。
制度を受ける側の苦悩と、それでも前へ進む力
そして、この映画でもう一つ感じたのは、「もうどうでもいいや」という感情が、意外と前向きな原動力になったりもするということだ。夢を叶えるため、誰かに好かれるために頑張るエネルギーとは違う、ヤケクソの中にある前進力。これを肯定してくれる作品って、意外と少ないんですよね。
現実だと彼女とヨリが戻ることはないでしょうが、この映画のラストのシーンの彼女の表情を考えるともしかしたらハッピーエンドで終わったの…かも。
だけども、ラストの一コマは体育館で寝そべってスマホの中の彼女の動画を眺めている動画と同じなんですよね。つまり彼が見ているのはスマホの中の彼女で、現実には振り向いてくれなかったのかもしれないなと思いました。
ああ、それだったら悲しいけど、失恋からレベルアップすることもたくさんあるからいじけずにがんばれ!
最後に
『Share the Pain』は、非常にセンシティブなテーマを扱いながらも、奇抜さに逃げず、登場人物たちのまっすぐな感情を丁寧に描いた一作でした。女性がみるとまた違った感覚を持つんだろうなと思いました。
