現在のインターネット社会、SNS社会の問題をテーマにしたなかなか考えさせられる1本でした。匿名性の高いネット社会では、誰もが加害者になりうる可能性がありますからね。
映画『NERVE/ナーブ 世界で一番危険なゲーム』とは?
2016年に公開された『NERVE/ナーブ』(原題:Nerve)は、ヘンリー・ジューストとアリエル・シュルマンが監督を務めたスリラー映画です。地味な女子高生のヴィー(エマ・ロバーツ)が、匿名で高額な賞金が手に入るオンラインゲーム「NERV」に参戦します。視聴者からの「指令」をクリアしていくうちに、ゲームは次第にエスカレートし、彼女の命までも脅かす危険なものへと変貌していきます。SNSの光と影、そして現代社会の闇を鋭く描いた作品です。
匿名という仮面を被った「視聴者」たちの狂気
主人公は、写真が趣味という地味な女の子ヴィー。スクールカーストの頂点にいるアメフトのキャプテンに恋をしていますが、親友のシドニーとは対照的で、少し内気な性格です。親友にけしかけられ、思いを寄せる彼に振られた腹いせに、ヴィーは「NERV」という裏オンラインゲームにプレイヤーとして登録します。
NERVは、視聴者(watcher)がお金を払って、プレイヤーに様々なお題を出す、というシンプルな仕組みです。プレイヤーは指令をクリアするたびに賞金を手に入れます。
最初は「勇気を出したら素敵な出会いがあり、ハッピーエンドでおしまい」という、ありきたりな青春映画かと思いきや、大きな間違いでした。徐々にエスカレートしていく視聴者の要望。彼らが見たいのは、行きつくところ人が死ぬ姿なんでしょうか。
この映画のポイントは、まさにこの「視聴者」です。彼らは実在し、名前も住所もあるはずなのに、仮面をかぶった人物として描かれたり、ただの通行人として描かれます。そして最後の二者択一。これは非常に怖い話です。
「死ぬ」を選択した匿名の人々
先日ニュースにもなっていましたが、自分の運命を視聴者の投票に委ねた少女がいました。結果「死ぬ」が過半数を超え、彼女は自ら命を絶ってしまいました。殺人ほう助なんて大げさな話にはならないのでしょうか。「死ぬ」を選択した視聴者は、一体どんな気持ちだったのでしょうか。
顔も名前も知らない彼らこそが、直接的な加害者に違いありません。きっと、投票した人たちは、あまり深く考えもせず、その場の雰囲気で選んでしまった人たちばかりでしょう。
登場人物の名前がヴィー(ビーナスの略)、シドニー(都市名)など、ハンドルネームっぽい印象を持たせるように作られており、リアルとネットが混在する感じがうまいです。また、この視点で作られた映画は初めてでしたし、冒頭からの展開も大変楽しめました。PC画面に立ち上がる雑多な通知や、スマホのインカメラの映像など、映像技術も面白かったです。
ただ、一つだけ納得いかない点がありました。オタクっぽい人が、簡単にシステムを書き換えてしまう。あの短い時間でソースを解析し、思った通りに動くようプログラムを修正するなんて、絶対に不可能ですよ。そして、自分自身を崩壊させるプログラムまで仕込むなんて……。ヴィーが大衆に訴えたことで視聴者の心が変わる、というだけではダメだったのでしょうか。それがきっかけで、NERVに新しい動きが発生し、ナーブそのものが変質してしまう、という結末です。
コンピューターに強い奴は、眼鏡、髪の毛ぼさぼさ、服装がダサい、小デブ、変わり者、と相場は決まっている中、今回はかなりイケメンがチョイスされている点は良かったのですが、ラストが悔しかった。とはいえ、全体に楽しめた一本でした。最近は当たりの映画が多くていいですね。
